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東京高等裁判所 昭和37年(行ナ)207号 判決

本訴において、原告は、本件審決が、「本願発明は、原告提示の訂正案によるも新規性を生ずるものとは認められない」としたことは事実誤認であり、この誤認を前提として訂正を命ずることなく、「抗告審判の請求は成り立たない」としたことは違法である旨主張するほか、本件審決理由の正当性は争わず、また、訂正案を採用して職権による訂正を命じなかつたことの裁量の違法についても主張するものでないことは、その主張に徴し明らかなところであるが、原告の右主張は、とうてい、これを認容することはできない。

特許出願をした者が出願後出願事項の訂正をするについては一定の制約があることは、本件のような旧特許法による出願にもいえることである。すなわち、出願公告の決定があつて後は、出願人は、旧特許法第七十五条(第百十三条第二項により準用される場合を含む。)第五項の命令による場合でなければ、出願に関する書類を訂正し又は補充することができない(旧特許法施行規則第十一条第四項)。本件において、出願公告の日が昭和三十一年八月二十四日であることは当事者間に争いがなく、原告主張の訂正案はその後である昭和三十三年九月十五日抗告審に提出されたものであることは成立に争いのない甲第九号証により明らかであり、これにつき前示法条による訂正の命令がなかつたことは弁論の全趣旨により明らかである。ただ旧特許法第七十五条第五項による訂正命令を発するのは当該機関がこれを必要と認めたときに限るとはいえ、これはその恣意に委ねられたものではなく、訂正命令を発しないことが裁量の限界を超えて違法となるときは、延いてその後の審決も違法となる場合がありうるけれども、原告はこの点についての裁量の違法は主張しないというのであるから、本件において訂正命令の発せられなかつたことが違法かどうかを論議判断する余地は存在しない。本願においては、原告は訂正を許されず、原告主張の訂正案は本件出願の内容となるにいたらなかつたものである。本件審決は、当初からの出願内容について判断し、主文の結論を下したものというべく、右訂正案に対する説明は、審決主文の理由を成すものではない。

以上のとおり、原告の本訴請求は、進んで他の点について判断するまでもなく、理由なしとせざるをえないこと、その主張自体から明らかなところであるから、これを棄却することとする。

〔編註〕 本件における原告の主張は左のとおりである。

一 特許庁における手続の経緯

コロンビア・サウザーン・ケミカル・コーポレーシヨン(アメリカ合衆国ペンシルバニア州ピツツバーグ・グラントビルデング二、二〇〇番所在)は、一九五三年五月八日、エドワード・マール・アレンから「微細シリカ顔料及其の製法」につき、日本国において特許を受ける権利を譲り受け、昭和二十八年六月十五日、特許出願(昭和二八年特許願第一〇、七三〇号)をし、昭和三十一年八月二十四日、出願公告(昭和三一年特許出願公告第七、二七四号)されたが、昭和三十三年二月二十二日、特許異議の理由とは異る理由で、拒絶査定を受けたので、同年八月二日、これに対する抗告審判を請求(同年抗告審判第一、九〇三号事件)したところ、右出願人(抗告審判請求人)より前記特許を受ける権利を承継した原告に対し、昭和三十七年六月三十日「本件抗告審判の請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は、同年七月二十五日、原告に送達された(これに対する訴提起の期間は、職権により、同年十一月二十四日まで延長)。

二 本願発明の要旨

微細珪酸アルカリ土類金属をアルカリ土類金属の水溶性塩を生成する酸と反応せしめ、その酸の量は、アルカリ土類金属の少くとも半分を抽出するに充分な量とし、アルカリ土類金属の全部が珪酸塩から除去される前に反応を中止することより成ることを特徴とする微細シリカ顔料の製造法。

三 本件審決理由の要点

本件審決は、本願発明の要旨を前項掲記のとおり認定したうえ、特公昭和二七年第四、五六五号特許公報の記載の「アルカリ土類金属珪酸塩にアルカリ土類金属の水溶性塩を生成する酸、たとえば、塩酸を反応させ水溶性アルカリ土類金属塩の存在下でカルシウム分を一部残存する珪酸ゲル、すなわちゴムの填料に好適する微粉状シリカ顔料を得る方法」(以下、引用例という。)を本願発明と比較考察し、結局、本願発明は、右引用刊行物に容易に実施できる程度に記載してあるものと認めざるをえないから、旧特許法(大正十年法律第九十六号)第四条第二号の規定により、同法第一条に該当しないものである、としている。なお、抗告審判手続において、請求人は、次のような訂正案を提示したが、本件審決は『訂正案につき検討するも、水溶液の濃度は、引用例のものに比し実質上の差異はなく、その混和の態様は劇しい攪拌状態の下に行われる点を現象的に詳説せるに止まり、特定の要件とは認め難く、「スラリーのpH五以上」は引用例の「上澄液のpH六・八」と実質上相違がないから、結局、本願発明がかような訂正により新規性を生ずるものとは認められず、したがつて、異議による訂正を命ずる必要は認められない』として、訂正案のとおり訂正命令を発することをしなかつた。

訂正案は、次のとおりであつた。

「立当り約二〇~二〇〇グラムのSiO2を含有するアルカリ金属珪酸塩水溶液及び立当り約二〇~二〇〇グラムのアルカリ土類金属塩化合物を含有するアルカリ土類金属塩化物水溶液の流動している流れを併合し、併合点で該流れを激しく攪拌して流れを瞬時的に混合させ、しかも、アルカリ土類金属珪酸塩のスラリーの流動せる流れを形成させ、その間前記流れの速度を調節してアルカリ土類金属塩化物をすべてのアルカリ金属珪酸塩と実質的に充分反応させ、次に得られたアルカリ土類金属珪酸塩スラリーと酸とを反応させて大部分のアルカリ土類金属を抽出するのに少なくとも充分な前記アルカリ土類金属の水溶性塩を形成させ、次にスラリーのpHを約五以上に調節して得られたシリカを採取乾燥することを特徴とする微粉状シリカ顔料の製造法」

四 本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、前記のとおり、本願発明は、前掲訂正案によるも新規性を生ずるものとは認められない、としているが、訂正案によれば、のちに詳述するとおり、本願発明と引用例とでは、具体的方法及び作用効果において重要な差異があるのであるから、右審決の判断は事実を誤認したものであり、本件審決が、これを前提として、訂正命令を発することなく、「本件抗告審判の請求は成り立たない」としたことは違法であり、取り消されるべきものである。なお、上記以外の点に関する本件審決理由の正当性は争わない。また、本件につき旧特許法第七十五条第五項の規定による訂正命令を発しなかつたことに裁量の違法があることは主張しない。

本願発明(ただし、訂正案による。以下同様)と引用例との比較

(1) 引用例には、本願発明における「激しく攪拌する」という技術思想が示されていない。

本件審決は、前掲訂正案にいう混和の態様は劇しい攪拌状態の下に行われる点を現象的に詳述しているに止まり、特定の要件とは認められない、としているが誤りである。右訂正案においては、激しく攪拌するという程度を、前記のとおり、「……アルカリ土類金属塩化物水溶液の流動している流れを併合し、併合点で流れを激しく攪拌して、流れを瞬時的に……充分反応させ、……」と攪拌の結果をもつて示している。本願明細書には、激しく攪拌するための一つの手段として遠心ポンプを使用することが記載されているが、同じ効果を達成するような他の装置を使用して差支えないことはいうまでもない。しかるに、引用例には、本願発明の激しく攪拌するという思想は毫も示されていない。このような特異な攪拌方法をとる結果、本願発明の方法による製品はゴム補強用填料として優秀な適性をもつのである。

(2) 本願発明は、アルカリ土類金属珪酸塩よりアルカリ土類金属を抽出する際のpHが引用例と異る。

訂正案においては、アルカリ土類金属の抽出を強酸性で行う。その結果、アルカリ土類金属が十分に抽出されるが、アルカリ側では十分ではない。酸性側で抽出したものとアルカリ側でしたものとでは、これをゴムに混合した場合、ゴムの引張り、引裂きの強度に著しい差異があり、引張り強度は、本願のもの二、一六〇~二七〇、引用例のもの二一〇~四一〇、引裂き強度は、本願のもの一九〇~二二〇、引用例のもの四〇~一〇〇である。

(3) 本願発明の方法は、引用例が一段法であるに対し、二段法である。

本願発明の方法では、まず、(イ)酸の不存在下に、塩化カルシウムと珪酸ソーダとを反応させ、次に(ロ)酸(たとえば塩酸)を加えて酸性下においてアルカリ土類金属(カルシウム)を抽出するが、引用例においては、たとえば、その例一では、塩化カルシウム、塩酸の混合液に珪酸ソーダを加える。したがつて、引用例の方法では、混合液中の塩酸で製品顔料中のカルシウムの抽出は十分に行われないが、本願方法のように二段で、しかも、のちに酸を加えると抽出が完全に行われるのである。

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